トレーダー・ジョーズは、メディアで全く宣伝をしていないにも関わらず、カルト信者にも似た熱心なファンがいて、お店はいつも賑わっています。コロナ禍では、店内の人数制限をしていたので、入るのに並んで10分以上待つことも普通でした。それはなぜなのか、その秘密を探ってみました。
従業員がいつも楽しそうに働いている
これは私も気づいたのですが、従業員はここで働くのが嬉しい!と思っていそうな感じでいきいきと働いています。従業員には、タトゥーをした人もいれば、ヒッピーっぽい人もいたり・・ガタイの良いおっちゃん従業員も非常に多くて、日本では考えられないなあ、と思ってしまいます。服装は、夏はアロハシャツに短パン、というようなとてもカジュアルでバカンスっぽい格好をしています。
働いている人たちがつまんなそうだと、こちらまで申し訳ないような、沈んだ気持ちになりがちですが、彼らが楽しそうにしていると、こちらまで気分が晴れやかになるものです。
それは、彼らがこの会社の雰囲気を好きなだけではなく、実際に会社が従業員をとても大事にしているから、というのも大きいようです。まず、給料は他のスーパーの相場よりも高く払っていて福利厚生も良い、それから十分な数の従業員をいつも店内に配置しているのも、彼らが余裕を持ってお客との会話が弾んだりできる理由になっているようです。
また、お店が忙しい時でも、従業員はお客様対応を最優先にするように推奨されています。
従業員のやっている試食コーナーの一角がある
最近のコロナ禍で、衛生上の理由からなくなったのが非常に残念ですが、今まではずっと、従業員が自社商品を使ってなにかのレシピを作り、そのサンプルを食べさせてくれる一角が各お店にありました。また、コーヒーもいつもポットに入れて、小さなサンプルカップで飲ませてくれていたので、私はそれが楽しみで毎回行っていましたよ(笑)そこには、動物性クリーム、植物性クリーム、砂糖とステビアの選択肢まであり、トレジョの太っ腹なホスピタリティが感じられて、それが目的でお店に立ち寄っている人が多いならば、十分「元」は取れていたと思いますね。
トレーダージョーズのクルー全員がカスタマーからの質問に答えられるよう、その商品がどんな味なのかテイスティングをし、自社製品の知識を豊富にもっています。(店内では無料で食べれたり社員割引で買えたりして、常に新商品を知っておくように奨励される)
そして得た知識をクルー同士でシェアすることでより愛着が生まれ、全員が多くの情報をもつスペシャリストになるんだとか。
いつもどこかにロブスター/ぬいぐるみが隠れている
お店は、親に連れられて一緒に来ている子どもたちにまでエンターテイメントを用意しています。彼らがヒマを持て余さないように、お店のどこかにロブスターか店員の名札をつけたぬいぐるみのマスコットが隠されているのです。それを見つけた子は、レジでロリポップがもらえます。また、何もしていなくてもスティッカーをくれたりもします。
これらは、親にとっても嬉しいサービスですよね♡
それから、「Customer in Training(研修中の未来のお客)」と書いた子ども用の小さなカートが置いてあるところもあります。これは、子どもが楽しいだけでなく、本当に大人になった時に懐かしくなってお店に戻ってきてくれるでしょうから、マーケティングとしてもとても賢いと思いますね。
レジで鳴らすベルの意味は?
トレーダージョーズという航海に乗り出した乗組員として従業員を”クルー”と呼びあう彼ら。
ノスタルジックな昔風お店のイメージを壊さないために、お店にはインターフォンや放送システムがなく、業務連絡はレジに設置されたベルを使います。1回鳴らすベルは休憩に入ったり混んできたから他のレジを開けて~という意味。
2回のベルはクルーが質問があってヘルプを求めている時で、3回はマネージャーを呼ぶときの合図なんだそう。
品質が良いのにお手頃価格!
アメリカには、オーガニックなどの高品質・高価格な商品を置いたWhole Foods(ホールフーズ、今はアマゾンが経営)などはありますが、高品質なのに驚きの低価格、なのはトレジョの特徴と言えます。お店全体の商品数を限る、売れない商品は打ち切っていく、中間業者がいない、リモートの土地にお店は開かないで輸送コストを削減、広告は打たない・・などの企業努力で、商品価格が他のスーパーよりも抑えられているようです。
オーガニック商品が多数あるし、オーガニックでない商品でも、例えばトレジョラベルのすべての製品には防腐剤が入っていません。またうま味調味料や遺伝子組み換え成分、人工トランス脂肪酸が含まれていません。そういう、商品をできるだけナチュラルな状態で届けようとしてくれている姿勢を感じると、消費者も嬉しくなりますよね。ただし、防腐剤が入っていない分、賞味期限は短めに設定されているようです。
あと、グルテンフリー商品が多い(その数100種類以上!)のもトレジョの特徴です。主に小麦に含まれるタンパク質のグルテンですが、そのグルテンをカットすると糖質・脂質の過剰摂取、血糖値の上昇をおさえ、整腸作用や便秘解消が期待できるということです。そのため、、特に小麦アレルギーや不耐症でなくても、小麦の摂取量をなるべく減らそうしようとするのが近年のトレンドになっています。
ジャンクフード大国のアメリカですが、トレジョで買い物をしたがるような一定以上の知識層は健康志向の人が多いようです。
トレジョのチラシ、Fearless Flyer
日本のスーパーのチラシは、当たり前ですが商品写真は必須!ですよね。しかし、トレジョのチラシは新聞みたいに白黒で、おまけに字ばっかりなんです!最初見た時は、仰天しました。ちなみに、トレーダー・ジョーズはセールをしません(!)普段から可能な限り商品値段を安く抑えているので、セールをする必要がないのです。じゃあ、チラシに何を書くの?!と思われると思いますが、どちらかといえば、ニュースレター的な感じで、新製品の説明とか、レシピの紹介などが、熱く切々と書かれてあります(笑)
また、全体に19世紀風のイラストなどを散りばめて、とてもおしゃれで芸術の域に至るような仕上がりになっていて、これを毎月1冊出し続けているのはすごいな、と思います。
ちなみに欧米では、字だけの料理本とか全然ありですが、それでも近年は、日本的に視覚に頼るところが増えてきました。、しかしこのお店は、この当初からのスタイルにこだわってやっていけているのもアメリカならではかな、と思いました。今ではトレジョの名物となっているFearless Flyerは、店内、郵送、Email、オンラインで見られますので、一度チェックしてみてください。
世界中を旅して生まれる新商品
トレーダジョーズには新製品やレシピのインスピレーションを求めて、世界中を旅する専門家チームがいます。
ヨーロッパからは様々なチーズを、アジアからはスパイスなど世界各国の食材を持ち帰り商品開発やパッケージデザインのヒントに。
そういえば日本のスナック”堅ぶつ”にそっくりなMochi Rice Nuggets、”じゃがポックル”に激似のSpud Crunchiesなんてのもありますからね・・
トレジョ特派員が日本に来たんでしょうかね?(笑)
商品名も、創始者Joe Columbieが楽しんで付けていたのを伝統にしているのか? そのお国柄を感じさせる面白いネーミングの商品が多いです。例えば、メキシコ食はTrader Jose(ホセ)、フランス食はTrader Jacque’s、日本食はTrader Joeさん(笑)、中華食はTrader Ming’sといった具合です。
本当に、飽きさせない工夫と遊び心がいっぱいのお店ですね。
店内にポップアーティストがいる
トレーダージョーズに入ると、お気づきかと思いますが、すべてのサインが人の手に書かれているのが特徴です。商品名や値段さえも。中にはクスッと笑ってしまう親父ギャグやかっこいいアート作品まで、とてもユニークなものがいっぱい。それが、人に楽しい気分、温かい人間味を感じさせる秘訣なのかな、と思います。
それらは、以前はわざわざポップを描くアーティストを雇っていたようなのですが、今はクルーの中で芸術的才能のある人がそれを担当しているようです。そういう人が各店にもいる、というのがすごいですが、逆にそういう人たちが魅力を感じて応募してくるような自由で楽しい雰囲気だから、というのもあるようですね。
すべての商品が試食できる / いつでも返品可能
これは私も知らなかったのですが、店内すべての商品を、クルーに頼めば試食させてくれるそうです! そして、気に入らなければ買う必要がなし。購入に至らなかった商品は、クルーに提供されるようです。
その前に、トレーダージョーズのクルー全員がカスタマーからの質問に答えられるよう、その商品がどんな味なのかテイスティングをし、自社製品の知識を豊富にもっています。また、商品開発部にもそのフィードバックをしているので、クルーにも人気のない商品は、そもそも棚に並びません。まさに、クルー全員がTJスペシャリスト。
また、基本的にアメリカは返品の基準が緩い国ですが、トレーダージョーズではレシートがない食べかけの商品を含め、何でも返品OKで全額返金してくれるそう。
通常返金の際はレシート提示する必要がある店がほとんどなので、ここも太っ腹!
お客さまには納得したものだけを購入してほしい
これがトレーダージョーズの経営理念。 有言実行でさすがです! 商品に自信があるからできることなんでしょうね。
毎週15個の新商品!?トレジョの商品入れ替えが多い理由
多くのスーパーマーケットは商品の陳列棚の場所によってサプライヤーに課金しています。そのため簡単に陳列を変えたり商品の入れ替えができないのですが、トレジョはそういったことがありません。トレジョでは毎週最大15個のオリジナル新商品が導入されます。新商品が出ると、つい試してみたくなる楽しみがあるスーパーです。そこで、回転のかんばしくない商品は、お店が小さいのと利益効率を保つために、店頭から姿を消します。
ちなみに、店内全体の86%をトレジョのオリジナル商品が占めているので(これは、驚異的です!)、生き残れているモノたちはかなりのスタメンたち、ということになりますね(笑)
エコバックを持って行ったら$25もらえるかも?!
エコバッグは今や、誰でも持ち歩いていますが、トレーダージョーズは、かなり早い時期からお客がエコバッグを持ってくることを勧めていたと記憶しています。それだけ、環境問題にも関心が高い企業なのですね。そして、持ってきたらレジで抽選に参加する旨を伝えると、25ドルの商品券が当たるかもしれないのです! レシートの裏に自分の名前と電話番号を書いて、お店の箱に入れておきましょう。お店から連絡が来るかも?!
ビジネス界では、何をするにしても、客をまず第一に考えることの大切さが言われてきましたが、やっと今頃になって、顧客体験の大切さが理解されつつあります。それが、明日の会社の株価と将来を左右すると。しかし、それは必ずしも会社がテクノロジーに投資するべき、ということではないのです。良いカスタマー体験は相変わらず人間的な要素からきています。未来の顧客は、人間的な交流を減らしたいのではなく、逆により求めている、ということが最近の研究からわかっています。人々は、素晴らしい体験を探しているのです。
私は、トレーダージョーズは、興味深いケーススタディだと思っています。彼らは、ほとんどのスーパーがやっているようなことをしてきていないのに、とても流行っている。まず、お店の規模が小さい、広告を打たない、クーポンを出したりセールをしない、会員特典プログラムもない、オンラインショッピングができない、店頭受取や配達もない、セルフ・チェックアウトのレジもない(笑)
このハイテクのご時世、これらのどれも、全国チェーンでやっていないところは聞いたことがありません。しかしながら、彼らのビジネスモデルは完全にうまくいっています。なぜなら彼らは顧客体験とは何たるかを熟知しており、型にはまらない商品と、高品質かつ低価格で攻めているからです。
トレーダージョーズは現にこう言っています:「私達のブランドはお店です」
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